疱瘡絶えて神社は残る
- 2021/03/20
- 20:31

「あ、これだ!」。NHKのローカルニュースを見ていて、思わず声を上げてしまった。山梨県上野原市にある小さな神社が紹介されていたが、その名が疱瘡神社だったからだ。コロナ禍で人気が出ているという。私の村にも疱瘡神様という祠があって、私にはその正体が謎だったが、これでやっと分かった。
祠は畑に行く途中の里山のすそに鎮座している。長いことヤブの中に隠れていたが、何年か前、草木が刈られて忽然と姿を現した。
朽ちかけて社名や由来を記したものはなかったが、その後修繕され「疱瘡の神様」という説明板が立てられた。しかし「2月に南無妙正大天女と書いた色紙を持ってお参りした」などとあるだけで、やっぱり神様の正体は分からなかった。
上野原の疱瘡神社は疱瘡(天然痘)除けの神様だった。天然痘は大昔から感染力が強く死に至る疫病として知られていた。正体不明で治療のすべもなかった時代、想像を絶する恐怖だったはずだ。神頼みしかなかったのだろう。
天然痘は日本では1956年以降発生は見られず、世界的にも1980年に根絶が宣言されている。しかしお役御免となったはずの疱瘡神社は生き残り、コロナ禍でまた表舞台に登場した。
科学知識と医療技術がこれだけ進歩しても、目に見えない新型コロナウイルスの恐怖は蔓延している。抱え切れない不安を神様の懐に預けてしまおうという心情は昔の人たちと変わらないのかも知れない。
私の村の疱瘡神の祠も、いつの時代かに上野原から分祀したものだろう。手を合わせるほどの信仰心は私にはないが、先人の苦しい生活環境の一端を垣間見せてくれる。
私の左上腕には十字型のケロイドがある。種痘の痕だ。10円玉ほどもあって、子供の頃は友達に「お前の疱瘡、でっかいなぁ」と驚かれた。私にはこの十字架が霊験あらたかな疱瘡の神様だったのだ。
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