隣家の主は遂に戻らず
- 2021/04/15
- 18:29

散歩の途中、集落のへそに位置する寺に足を延ばし墓地を歩いた。墓石に刻まれた家名の多くは、近所の誰かの顔と結びつく。1つひとつの墓石を巡っているうちに、隣家の墓の前で足が止まった。墓碑にロクさんの名が新しく刻まれていたからだ。
彼の姿を見なくなったのは東日本大震災の少し前だったから、もう10年になる。その年の正月に県内の親戚の家で脳梗塞を起こし、そのまま入院したという話だった。独り住まいだったので...
山菜ズラリの豪華食卓
- 2021/04/06
- 21:23

春の山菜オールスターと言ったら大げさだが、山がちの田舎ならではの天ぷらが食卓に並んだ。山菜の王様と称されるタラの芽を4番バッターに、山ウド、ワラビ、フキノトウ。私にとっては豪勢な夕食だが、心の中はちょっと寂しい。私の手で採った、あるいは私の家で採れたのはフキノトウだけだからだ。タラの芽は農協の直売所に2パックだけ置いてあったのを買って来た。1パック250円。地産地消だから都会では信じられないほど安い。...
客にひかれて桜尽くし
- 2021/04/01
- 21:14

庭の桜の下に食卓を設えた。頭の上には真っ青な空を背景に淡いピンクのレースが浮かぶ。ふんわりとした空気に包まれて、何とも贅沢な昼食となった。前日、桜前線に誘われて山梨の家に着くと、庭の桜はちょうど満開。1年に1度しか見せないこの姿を、今年はどうしても網膜に焼き付けておきたかった。15年前、家人の還暦記念に植えた苗木が今は家の屋根を優に超え、ドーム形に枝を広げている。手前味噌ながら均斉の取れた樹形はどこの...
疱瘡絶えて神社は残る
- 2021/03/20
- 20:31

「あ、これだ!」。NHKのローカルニュースを見ていて、思わず声を上げてしまった。山梨県上野原市にある小さな神社が紹介されていたが、その名が疱瘡神社だったからだ。コロナ禍で人気が出ているという。私の村にも疱瘡神様という祠があって、私にはその正体が謎だったが、これでやっと分かった。
祠は畑に行く途中の里山のすそに鎮座している。長いことヤブの中に隠れていたが、何年か前、草木が刈られて忽然と姿を現した。朽...
奇怪!畑で卵が採れた
- 2021/03/14
- 22:03

コロナ禍で山梨から足が遠のいていた間に、畑にはホトケノザが密生していた。しばらくぶりで足を踏み入れて、まずこの草を退治しなければならなかった。18年続けた半農生活も間もなく切り上げることになっていて、畑を継ぐ人も決まっているのだが、草ぼうぼうの状態で引き渡すわけにはいかない。鍬を打ち込みホトケノザを束にして引き抜いた。ひと鍬ごとに甘い青臭さが漂ってくる。私にとっては春の香りだ。しかしこのホトケノザは...
土と太陽を知る鶏たち
- 2021/03/03
- 23:06

《手洗いもマスクもできぬニワトリが密に飼われて埋められてゆく》。最近の朝日新聞の歌壇に掲載された作品に目が留まったのは、その数日前、機会があって隣市の養鶏場を見学したばかりだったからだ。
この短歌は、鶏インフルエンザで大量に殺処分された鶏を憐れんで詠まれた。死ぬまでの非人道的な飼われ方にも思いを巡らすことで、悲しみ、憤りが何倍にも膨らんでいる。
私が見学したのは、そういう養鶏場ではなかった。品...
白菜もコロナを生きた
- 2021/02/21
- 00:47

緊急事態が延長されていた東京から、都県境を越えて今年初めて山梨に行った。畑が気になって仕方なかったからだ。自分の仕事場に出掛けるのは不要不急ではないはず、と自分を納得させねばならなかった。
山梨の家に着いて先ずは畑の点検。この春には半農生活を打ち切る予定なので、新しい野菜の播種、植え付けはストップしている。だから畑には昨シーズンから取り残している白菜とネギしかない。
心配だったのは白菜だ。昨年...
最後の1個「百菜の王」
- 2021/02/06
- 20:08

家人の誕生日、用意してあった寿司にもう1品加えようと、近くの中華料理店から唐揚げを買ってきた。私が刻んだキャベツを添えて骨董の皿に盛った。このキャベツが私にとってはこの食卓の主役だった。実はこのキャベツ、昨年暮れに収穫してかずっと冷蔵庫にしまい込み、価値ある出番を待っていた。というのも、私がこれまで20年間栽培してきたキャベツの、恐らく最後の1個だからだ。らコロナ禍で今年はまだ山梨に行っていないが、畑...
峠のそば屋に思い馳せ
- 2021/01/21
- 23:54

首都圏などに2度目の緊急事態宣言が出て、都県境をまたぐ山梨行きを自粛している。東京に足止めされて思いを馳せるのは、雨なし天気に耐える畑と、もう1つは峠の下に寂しくたたずむ無人のそば屋だ。
中央道を大月で下りて甲州街道を20分ほど走った笹子峠の手前に、そのそば屋はある。いや、あったというべきだろうか。昨年暮れ、東京へ戻る途中に立ち寄ったのが最後となった。店を出て駐車場に向かうと、ご主人の細君が追いか...
小さく祝う自粛の新年
- 2021/01/02
- 02:47

庭木の根元に敷いてあるワラに家人が鋏を入れている。2度目のユズ収穫を終えて東京に戻った翌々日、2020年最後の日だった。庭に面した窓辺で日課の新聞を読んでいた私は気にも留めなかったが、「玄関を見て」の声に重い腰を上げて外に出ると、門に小さな飾り物。しめ飾りの積もりらしい。40㎝ほどに切ったワラを三つ編みにしたのが本体。何やら丑の刻参りのワラ人形風だが、庭木の赤い実をあしらって正月の雰囲気を演出している。...
ユズのサービス大人気
- 2020/12/24
- 22:00

冬至の前後はユズの季節。今年も私の乗用車と野田さんの軽トラを連ねて町内の山間地の畑に収穫に出掛けた。
例年なじみの栽培農家に1~2本の木を私たち用に割り当ててもらっているが、今年は取り残してある3本が私たちの木になった。全部収穫すればコンテナ10箱近くになるだろうか。かなりの量だ。
今回は半分だけ収穫して東京に持ち帰ったが、我が家でジュースにしたり親戚に分けたり歳暮のお返しに送ったりしても使い切れ...
冬も実る枝垂れトマト
- 2020/12/17
- 06:02

子供の頃からトマトはあせもや蚊取り線香と同じくらい夏のものだと思っていた。だから年の暮れが迫っても実をつけているトマトは感動的でさえある。納屋と垣根の間の狭い庭に3~4本のトマトの芽が出たのに気づいたのは夏の終わり頃だった。種を播いた覚えはないから、腐ったトマトでも捨ててあったのだろう。邪魔になる場所ではなかったので、そのままにしておいた。
畑でもトマトは毎年作ってきた。5月に耕運・施肥して苗を植...
70年ののれん今年限り
- 2020/11/26
- 21:20

「あ、ここにあんな店が……」。家人と自動車で通り過ぎた交差点近くに、昔の落ち着いた町家の風情を残す建物を見つけた。食堂の看板が掛かっている。
何度か通っている隣市の道だが、今まで気がつかなかった。こういうたたずまいの店なら、どんな味だろうと入らずにはいられない。道を引き返した。
店内は今風に改装されているが、奥は神棚のある座敷で、昔の間取りを残しているようだ。壁の品書きは親子丼、カレーライス、焼...
店も人も昭和の味わい
- 2020/11/11
- 17:39

その食品店はシャッター街の外れにあった。古びてくたびれた店構え。思い切ってドアを押すと、店内は「昭和」の世界だった。合併前は隣町だった商店街。国道沿いに栄えた当時の街並みは残っているが、近隣の大型店進出に加え、国道にバイパスが出来て人も車も往来は少ない。この店は初めて知った。別の用事で通りかかり、夕食のビールに刺し身があったら、と思っていたところに看板の「魚」の文字が目に入ったのだ。店内の床は殺風...
感謝の乾杯ささやかに
- 2020/11/01
- 18:53

アメリカの祝祭とは何の関係もなく、適当に「感謝祭」と銘打った飲み会を開いた。東京の家の近くの中華料理店に招いたのは、チューコー君とサルヒコ君。3人だけのささやかな乾杯だった。今シーズンの野良仕事が一段落したのを機会に、これまで長いこと助けてくれた2人にささやかな感謝の気持ちを表したかった。山梨で半農生活を始めたのは2003年。大学時代の同級生だった2人は翌々年から初夏の田植え、秋の稲刈りに、長野と八王子...
虫と分け合う秋の恵み
- 2020/10/20
- 21:47

いた、いた。犯人、いや犯虫はこんなヤツだったんだ。腐りかけたイチジクの実にかじりついているカミキリムシを見つけて、憎しみより親しみを感じた。
植えて8年になった畑のイチジクは、毎年のように虫害に遭い、ひどい年は一番太い幹が途中で折れるほどのダメージを受けた。カミキリの仕業であることは分かっていたが、どういうわけか張本人を目撃したのはこれが初めてだった。
被害はいつも暖かくなる頃に気づく。大根...
ご老体の脱穀機が奮闘
- 2020/10/08
- 22:51

天日干しした稲を脱穀する日は爽やかな秋空が広がり、絶好の脱穀日和だった。朝9時、カサカサに乾いた稲束の感触を楽しみながら、脱穀機を軽トラに積んで来る野田さんを待った。ところがいつまで待っても現れない。不安が高じた頃に連絡がつき、脱穀機が動かなくなったと知らされた。困った。野田さんの脱穀機がなければ1粒の米も米袋に入らない。
必死に修理を試みる様子に、7割の絶望と3割の希望を持ってさらに待ってから...
「垂直栽培」貴重な1個
- 2020/09/29
- 02:24

縁先の庭に勝手に出てきたスイカの苗について、先頃2度にわたって書いた。その後どうなったかというと、1つだけだが首尾よく実が収穫できた。
その苗に気づいたのは7月の中頃。昨年夏、縁側で吐き出した種が思いがけずいくつかの芽を出していたのだ。蔓が庭を這って広がったら邪魔になるのだが、抜いてしまうのも可哀そう。そこで2本の支柱を立て、間に張ったネットに蔓を誘導した。ほっぽらかしで肥料もない不遇な環境の中で...
スズメバチを一網打尽
- 2020/09/24
- 21:52

納屋裏の草を刈っていて、鉄骨の梁から吊り下がっているソフトボール大の球体に気づいた。ハチの巣だ。下部に10円玉ほどの入り口があり、敵も異変に気づいて黄色い顔を出した。
一瞬、ゾッとして逆毛が立った。巣の形や体のサイズからしてスズメバチだ。刺されたら命にかかわることさえある。刺激しないよう、その場をそっと離れた。
それから数日、気になってちょくちょく見に行くと、気配を察して巣穴から出て警戒する。...
稲が倒れて百姓は立つ
- 2020/09/05
- 23:20

早起きして田に行く途中、町道から見下ろす田に、1人黙々と働く人がいた。倒伏した稲を起こしている。体力と根気が要る作業。いや、苦行と言っていい。
この田の稲が倒れたのは数日前だった。5畝ほどの稲の半分以上が、小型UFOの着陸跡のようになぎ倒された。周りに倒伏した田はなく、ここだけだ。
肥料をやり過ぎると稲は倒れやすくなるが、この田の倒伏を見つけたタケちゃんは「倒れ方が不自然。突風にやられたんだろう」...
畑の帰りに思わぬ伏兵
- 2020/08/22
- 23:43

大汗をかいて畑から帰る夕方、灰色の中型犬に出あった。リードを握る女性も犬も見たことがあるような、ないような。集落を貫く町道は甲府盆地を見下ろす絶好のコースだから、散歩する人と犬は朝夕いつもの光景だ。でもこの日はいつもの光景でなくなった。道沿いには用水路が勢いよく流れている。日中の猛暑にうだったのか、犬は繰り返し飛び込んで水浴びしていた。異常に興奮しているようだった。そこへ一輪車を押した私が運悪く通...
発想転換で「垂直栽培」
- 2020/08/12
- 21:50

家の縁先に勝手に出てきたスイカの苗のことを前回書いた。その後いったん東京に戻り、17日ぶりに来てみると3本の苗は順調に伸びて、1個だけではあるがパチンコ玉ほどの実さえつけていた。庭を這う茎は予想通り、駐車スペースに入る自動車の通り道を塞いでいた。かなり邪魔ではあるが、ここまで大きくなると育てるしかない。いずれ甘い実で恩返ししてくれるだろうという魂胆も出てきた。
どうやってスイカを救うか。乏しい知...
健気で迷惑なスイカ苗
- 2020/07/28
- 08:09

降らなければ困る雨も、こう降り続いては恨めしい。土がぬかるんで野良仕事ができないからだ。畑を気にしながら東京で過ごし、貴重な梅雨の中休みを逃さず3週間ぶりに山梨にやって来た。
植物の生育時期に放置した畑は、想像した以上の荒れようだった。あれこれの草が畝も空き地も占拠して一面のじゅうたんとなり、土を隠してしまった。
しばらく呆然としたが、片っ端から刈り始めるほかなく、覚悟を決めて草刈り機に燃料...
イモムシが売れるとは
- 2020/07/08
- 23:19

庭のプランターに1株だけ植えてあるパセリに少なくとも4匹のイモムシがついているのを見つけた。大きいのは体長5cmほど。蛍光ペンで着色したように鮮やかな緑と黒の縞模様。黒帯にはミカン色の斑点がある。キアゲハの幼虫だ。
株が丸坊主になるかと思うほど食欲旺盛だが、駆除せずに好きなだけ食わせて夏空に飛び立たせてやろうと思う。パセリはとっくにトウが立って花も咲き、人間の食用にはならないからだ。
キアゲハの幼...
梅雨が来れば思い出す
- 2020/06/21
- 23:43

畑から家に戻ると、玄関先にカンさんの軽トラが止まっている。荷台に20本ほどのタケノコ。80を超えるご老体が山に入って採り、届けてくれたのだ。近所のよしみで懇意にしてはいるが、こんなことは初めて。ありがたくいただいた。田植えと梅雨入りは、タケノコを連想させる。このあたりでタケノコといえばマダケかハチク。一般的なモウソウより小型だが、モウソウが店から消えた後に出るという、気の利いた山の幸だ。実は私もその数...
耕運機エンコに助け舟
- 2020/06/15
- 06:13

田植えに備えて代掻き作業中、耕運機が突然動かなくなった。前進のギヤを入れるとギィーと摩擦音がしてエンジンが止まってしまう。
代掻きは田に水を入れ、水と土を混ぜ合わせる作業。土が細かい粒子になって沈むことで田の表面を平らにし、底を目詰まりさせて水漏れを防ぐ効果がある。田植え前に欠かせない準備作業だ。
どこの田でも乗用型のトラクターが快音を立てて走り回る中、私は小馬力の古い手押し型耕運機でトロ...
「粒粒辛苦」は今や死語
- 2020/05/26
- 21:03

コロナの緊急事態宣言が出ていたにもかかわらず、田植え準備のためやむを得ず都県境を越えた。メール仲間にそんな報告をしたら、返信をくれた1人が、石川啄木の「じっと手を見る」のイメージだと言った。よほどあくせく働いているように見えたらしい。半農人としては百姓仕事に生活を掛けているわけではないし、「はたらけど はたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり ぢっと手を見る」と詠んだ歌人ほどには困窮もし...
焼酎でトラクター釣る
- 2020/05/19
- 19:13

東京都民として自粛を守り通すか、それとも自称篤農として田畑を愛護すべきか。新型コロナの渦中で迷いに迷った末、2カ月ぶりに山梨にやって来た。
東京にいても盛り場に出ることはないし、電車にも乗っていない。飲食店もご無沙汰だ。私がコロナに感染する可能性はまずないはず。それでも地方では東京人というだけで警戒されるという。私たちの入村が地元の人に不安を与えないかが気掛かりだった。
事前に知人に電話し...
我が家守る親友の形見
- 2020/05/06
- 23:13

コロナ禍で東京の家に閉じこもり、ひと月半も山梨に行けずにいる。これほど長く山梨の家を空けたのは17年間の半農生活で初めて。空き家状態だが、玄関の古い表札が主の存在を告げてくれているはずだ。
この表札は私たちの結婚祝いに親友が贈ってくれたものだから、もう50年になる。私の名前は金属板に彫られていて、その金属板がはめ込まれた木の台は裏側が風化し始めている。仙台の公社住宅、横浜の賃貸アパート、東京の古家の...
師匠▶▶ 命あってのものだね? ④
- 2020/04/23
- 21:51
コロナ蟄居を利用して、退蔵してあった美空ひばりの昔の映画ビデオを見ている。横浜でひばりと同じ町内で育った私は、彼女に強い嫉妬とをひそかな憧れを抱いていた。ビデオがたまっていたのはそのせいだ。「悲しき口笛」「東京キッド」といった戦後世相を背景にした彼女の映画は今見ても実に楽しい。明日の食うものに不安はあっても、その先にある未来を信じて、まぶしいほどに明るい時代だったからだ。今は違う。どこから来るかも...
兎▶▶ 命あってのものだね? ③
- 2020/04/20
- 08:25
過度でさえなければ、不安を持つことが今は必要なように思います。「自分は大丈夫」と思いがちな、若い人は特に。私が20代だったころ。世の中は困難な時代に入りはじめていましたが、「老い」とも「死」ともまだ無縁で、不摂生で不健康な生活を「満喫」していました。その後、阪神大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災を経て、病気を罹ったり、事故に遭ったり、歳を重ねて親も亡くなって、命が有限であることを実感してはいたも...
師匠▶ 命あってのものだね? ②
- 2020/04/20
- 06:30
「物種」にそんな重い意味があったとは。「命あっての物種」という使い方しか知らず、「くわばら、くわばら」と同じような意味だと思っていた。この年でこの無知は「物笑いの種」だね。昨夜、孫のような友達がSNSにただ一言、「心配……」と投稿してきた。「何が心配?」と聞くと、「未来が」。この2文字3文字に「絶望」が芽ぐんでいるように感じる。重苦しいコロナ禍は家々のドアだけでなく若者の未来を展望する窓さえ閉ざしてし...
兔▶ 命あってのものだね? ①
- 2020/04/14
- 23:09
コロナをお題にもうひとつ。兎さ吉ーーーーーーーーーー恐らく。自分が死ぬことなど到底イメージできない年齢層の多くは聞いたことがあるまい。聞いたところで、脳内で「だね?」に変換する割合が半分以上だと思う。正しくは「物種」。物種とは生命の根源。命という大本がなければ何もできないことに由来する。現代口語訳:生きているから何でもできるんだよ。だから、亡くなるようなことはしちゃだめだ。…「つまり、命あってのも...
師匠▶▶ ロックダウン後の平穏 ②
- 2020/04/11
- 21:14
緊急事態宣言の翌々日の夕方、新宿を通りかかって愕然とした。歌舞伎町と駅を結ぶ横断歩道を切れ目なく人の群れが流れていたからだ。足を傷めて歩行困難だった家人が都心の診療所へ行くのに付き添って出掛け、この光景に出あった。流れの中には若い人たちが目立った。この人たち、互いに繋がりを意識していないだろうが、実は繋がっているんだということが、コロナ禍で負の意味を込めて意識されるようになった。知らない同士、ウイ...
兔▶ ロックダウン後の平穏 ①
- 2020/04/10
- 18:06
ECO噺、久々に更新します。兎さ吉ーーーーーーーーーーわたしは「ただ繋がること」を欲しない。100人の知り合いより1人の友達と「便りがないのはよい便り」。つかず離れず、期待せず、時間をかけて信頼関係を作りたい。自宅にいるのが至福の時。電話はしない。ラインもしない。要件はメールかSMSで。ドイツに来て20年、尋常なく忙しかったこともあり、外食はしなくなった。世の中ではこれを「人嫌い」と言う。群れを好まず、不要不...
コロナが畑へ通せんぼ
- 2020/04/05
- 06:02

畑の一角に白い花をつけた一群のエンドウ。空を指して真っ直ぐに伸び、生命力あふれる季節を予感させる。でもここは東京。残念ながら私の畑ではない。東京の住まいは区部のはずれなので、10分も歩けばまだ農地が残っている。散歩しながら畑を観察するのは都市生活では得難い楽しみだ。が、今回は素直に楽しめない。山梨の自分の畑が気になるのに、見に行くことすら出来ないからだ。
種から育てた私のエンドウはどうなっているだ...
コロナではないけれど
- 2020/03/21
- 00:06

遠来の客と一献傾けた夜、胃の重くなるのを感じて早めに布団に入った。しかし胃の違和感は収まるどころか膨らみ続け、ついに暴れ始めた。慌てて布団から飛び出し、庭に下りて思い切り戻してしまった。
酒飲みの常で、私も飲んだ後はラーメンが恋しくなる。この晩も家の戸棚の片隅に眠っていたカップラーメンを腹に収めた。期限切れだったのが悪かったのか。いやいや、そんなやわな胃袋ではないはずだ。
眠れないまま朝を...
道行く村人は今いずこ
- 2020/03/12
- 01:57

朝の畑仕事を終えて帰る道で、前からゆっくり歩いて来る長老に出会った。最近、散歩する姿を見掛けなくなっていたが、春のような陽気に誘われて冬ごもりの家から出たらしい。「珍しいですね。茶でも飲んでいけし」と誘った。我が家の縁側に腰を下ろしてもらい、家人の粗茶でひなたぼっこしながら世間話。長老にとっては失われた村の習慣がよみがえる心地よい時間のはずだ。長老は92歳。私たちが村に入った頃は田植え、稲刈りなど...
手作り餃子を家で満喫
- 2020/02/27
- 02:24

「リリが榎戸さんちで餃子を作りたいと言ってます」。中国出身の細君を持つ野田さんから電話でオイシイ話があった。中華料理店のでなく中国の一般家庭の餃子が味わえる。「オーケー、オーケー!」。二つ返事が弾んだ。その日の夕方、夫婦と保育園児の娘が自動車でやって来た。降ろした段ボール箱には餃子の生地、餡と麺棒。皮から作ってくれるらしい。ほかに自宅で調理ずみの本格中華料理が2皿。台所に立ったリリさんは、こねて棒...
寒中に力業で畑に活力
- 2020/02/07
- 02:38

広々とした畑の一角に突き立ててある1本のスコップ。畑に活力を与える寒起こしという重労働の最中のようだ。残念ながら私の畑ではない。山梨の私の畑は冬野菜を終えて春を待つ暇な時期。しばらく東京で過ごす間、自転車で10分ほどの区立農業公園に立ち寄り、スコップに目が留まった。スコップが通った跡は平らな土が深く掘り起こされ、土塊が連なっていた。人力での奮闘ぶりがありありだ。寒起こしは厳冬期に掘り返した土を寒風に...
手作りポストは4代目
- 2020/01/18
- 02:24

玄関前の郵便受けを新しくした。この家に住んで17年、壊れては取り替えて、これで4代目。我が家の看板代わりとして木製の手作りにこだわってきた。赤い「〒」の字が目立ち、私は気に入っている。作ってくれたのは町内で工務店を営む保坂さん。骨董と山登りに凝っていて、東京の骨董市に足を運んだり各地の名山を楽しんだりで、いつ本業を手掛けているのか分からないような人だ。それでいて職人としての腕は確かなので私は敬服して...
健気に育った放置白菜
- 2019/12/27
- 20:42

東京で半月近く過ごした後、久しぶりに畑に入って驚いた。入り口近くの雑草の中で、何個かの白菜がちゃんと白菜らしく育っていたからだ。よくぞ冷遇に負けなかった。その健気さは感動的でさえあった。
今年の白菜は8月半ばに東京の家で種を播いた。粟粒より小さいのを4~5粒ずつ40鉢。発芽後に間引いて1鉢2本にし、さらにこの2本を2鉢に分け80鉢に。これで80個の白菜が取れる。地面からの虫を防ぐため鉢は台の上に載せ、空から...
絶景のユズ山にリニア
- 2019/12/14
- 23:59

裏山の黄色が深まる頃、例年通り町内のユズ畑に出掛けた。無農薬栽培している農家にお願いし毎年1~2本の木を丸ごと収穫させてもらっている。今年も無農薬スモモを栽培する野田さんが軽トラに大小の脚立を積んで隣市から来援してくれた。軽トラと私たち夫婦の乗用車で谷川沿いにくねくね上った先にたたずむ鄙びた集落。地図上の距離は短いが、我が家とは200mほども標高差がある。一角のユズ畑からは冠雪した富士山が間近に見える...
ハンパじゃないパン店
- 2019/12/02
- 19:26

ラーメン店に置いてあった地元紙をめくっていて、「おや?」という記事に目がとまった。県内のパン店を紹介する「やまなしパン散歩」という連載だった。1年余り前のことだ。登場していたのはその前年に東京から町内に移転してきたという店。田舎から東京に出る店はよく聞くが、その逆はちょっと珍しい。記事によると、移転前の店は私の東京での住まいの散歩ルート上だった。カウンターの隣にいた家人に記事を見せると、「ああ、あ...
私の柿の実ロス削減法
- 2019/11/12
- 05:08

深い青空を背に色づいた柿の実は晩秋の里を彩る風物詩だ。そんな絵画的な情景を楽しみながら、「あ~、もったいない」とも思う。家々の庭にも里山にも、収穫されないままの柿が多すぎるからだ。横浜での小学生時代、秋にはわざわざ柿の木のある友達の家に遊びに行った。1つ2つもがせてもらって、下町では縁遠い秋の恵みを味わったものだ。そんな思い出のせいで今でも柿にこだわりがある。私の家にも1本あるが、老木で実は熟す前に...
農道広がり軽トラOK
- 2019/10/31
- 22:09

今年の米作りはこれまでになく順調で快適だった。一番の理由は、町道から田に下りる農道が県の事業で大改修されたことだ。昨年までこの農道は2人が並んでやっと通れるほどの狭い急坂で、急カーブもあった。おまけに薄っぺらで継ぎはぎのセメント路面。農機など想定していなかった時代に農家が手作りした道のようだった。軽トラが通れないのはもちろん、脱穀機を入れるにも細心の注意を払わなければならなかった。実際、10年ほど前...
喜べない井の中の無事
- 2019/10/19
- 23:39

「最強」とも言われた台風19号が通り過ぎて青空が広がった翌朝、早起きして近所を見て回った。私の家も田畑も被害はほぼゼロ。近くの2枚の田で稲架が倒れていたのが、目についた唯一の被害だった。19号が列島に接近する頃、私はかなり緊張していた。「関東、東海では記録的な大雨や暴風となる恐れ」という新聞の活字が頭に刷り込まれていた。台風の前に脱穀を済ませて稲架を解体しておいた。空き家になっている隣家の水路まで浚...
初参加夫婦が救いの神
- 2019/10/05
- 19:51

「あれ、バインダー(稲刈り機)どうしたの?」。稲刈りの朝、応援に来てくれた野田さんに「おはよう」代わりのあいさつがこれだった。当てにしていたバインダーが彼の軽トラに載っていなかったからだ。「壊れたって言ったじゃないですか」と、あきれ顔の野田さん。そうだっけ、すっかり忘れていた。いずれにしろ機械なしの稲刈りは非常事態だ。狼狽したが、すぐに気を取り直した。初参加のケリーさん、みあさん夫婦が隣で身支度整...
旅情イマイチ復活SL
- 2019/09/26
- 19:12

真夏の暑さが居座った9月の週末、JR釜石線(岩手県)のSL銀河に乗った。新聞社の盛岡支局時代の同僚が三陸の被災地へのささやかな支援を兼ねて企画した懇親会の往路、指定席を確保してくれたのだ。蒸気機関車が引く鉄道の旅は、確か57年前の高校の修学旅行が最後。新幹線を東花巻駅で降り、子供のように期待を膨らませながらSLを待った。だが乗り込んでみると、どうも違和感がある。外観や内装は観光用にしゃれたデザインが施され...
車に自転車やっこらさ
- 2019/09/12
- 16:44

新宿の飲み屋で女将がなぞなぞを出してきた。「冷蔵庫にキリンを入れる入れ方知ってる?」。ビールで はなく本物のキリンだという。「知らない」と言うと手ぶり交じりで教えてくれた。「冷蔵庫の扉を開ける、キリンを入れる、冷蔵庫の扉を閉める」。なるほど。30年も前のこんなたわいない会話が記憶の底から這い出してきたのは、乗用車に無理やり自転車を積まねばならない羽目になったからだ。それは冷蔵庫にキリンを入れるほど簡...